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2017.01.04 Wednesday

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    44 ベトレヘムへの旅 つづき2

    2013.06.18 Tuesday

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      低くて湿っぽい小屋というよりも、洞穴といった方がよい所がある。それでも一番よい所には、もう人が入っている。ヨゼフはがっくりする。
      「おーい。そこのガリラヤ人!」と後ろから一人の老人が叫ぶ。「あそこ、奥の方、あの廃墟の下に洞窟みたいな所がある。そこには多分まだ、だれもいないだろう」
      その”洞窟”の方へ足を早める。本当に洞窟である。昔の何かの建物で廃墟の中に通路があり、その向こうに土台とも考えられるもので、その屋根は、木の幹に支えられている廃屋である。
      もう、光は非常に少ないので、ヨゼフは肩にかけている袋から火打石を取り出して、小さい灯かりに火をともす。入ると、牛の声に迎えられる。
      「マリア、おいで。空っぽです。一頭の牛がいるだけ」
      ヨゼフは苦笑いして、「何もないよりはいいでしょう」と言う。マリアは小ろばから下りてくる。
      ヨゼフは柱となっている木の幹についている釘に、小さな灯かりをかける。天上は、くもの巣がかかり、床は、
      石、くず、破片や動物の糞が散らばった土間ではあるが、藁もある。奥の方では一頭の牛が枯れ草を噛みながら頭を回し、その静かな目でじっと眺めている。明かりとりの窓のそばの隅には、粗末な腰掛けと二つの石がある。その隅が黒く焚き火をする所と分かる。
      マリアは牛に近寄る。寒いので手を暖めるためにその首におく。牛はモォーと鳴いて、したいようにさせる。何だか分かっているような感じである。ヨゼフが、草桶から枯れ草をとってマリアのためのベッドを作ろうとして、牛を向こうへ押す時にも、牛は素直にされるままになっている。まぐさ桶は二重になっている。というのは、牛が食べるまぐさがなって、その上に柵が作ってあり、予備の枯れ草が入っている。ヨゼフは、その上の枯れ草をおろす。小ろばのためにも場所を作り、飼い葉をやる。この小さな動物も疲れてお腹をすかせているので、すぐに食べ出す。ヨゼフは、ころがっているへこみだらけのバケツを見つけ、外に出て小ろばのための水を汲んで戻る。それから、隅におかれている小枝の束で土間を掃き、一番乾燥して風の当たらない隅―牛のそば―に枯れ草で寝床を作る。しかし、この枯れ草も湿っぽいと感じて、ため息をつく。焚き火で、忍耐強く枯れ草を束に分けて、火のそばにかざして乾かす。
      マリアは疲れて低い台に腰かけ、ヨゼフの働きぶりを見ながら、やさしくほほえむ。たちまち、あたりはすべて備えられる。マリアは肩を株にもたせて、ふかふかした枯れ草に少しは楽に腰かける。ヨゼフは、入り口になっている割目の前に、カーテンのように、自分のマントをかけて室内装飾? を完成させる。たいした防寒具ではないが、ともかく…。それからマリアに、パンとチーズをすすめ、水筒から水を飲ませる。
      「これから少し寝なさい」と言う。「私は火が消えないように起きて番をしている。幸い薪が少しある。続いて燃えてくれればいいが…これで灯かりの油が節約できる」
      マリアは素直に横になる。ヨゼフは、マリアのマントと、先に足の上にかけていた毛布で覆ってやる。
      「でも、あなたは…寒いでしょう」
      「いいえ、マリア。私は火のそばにいる。今、何とかして休みなさい。明日はもっと、うまく行くでしょう」
      マリアは、もう何も言わずに目を閉じる。ヨゼフは、枯れ枝をそばにおいて、隅の台の上にひっそりとうずくまる。
      そのそだも少なく、あまり長くもちそうもない。
      その情景は次のようである。
      マリアは右の方、入り口に背を向けて、敷き藁に寝そべった牛の体と切り株に、ほとんど隠れている。ヨゼフは入り口の斜め左方にいる。そして、顔を火に向けているので、肩がマリアの方に向いている。しかし、彼女を絶えず見守って、たびたび頭を回し、静かに寝ている様子を見て安心する。そっと小枝を折り、小さい焚き火に一つずつくべて、そのわずかのそだで火が消えないように、少しでも光があるように注意している。灯かりは消されて、薄明かりの中に、牛とヨゼフの顔と手の白さだけが見える。ほかのすべては、ほの暗さに、ぼかされた塊でしかない。
      *  *  *
      「口述はありません」とマリアが言われる。「ヴィジョンが充分、語っています。そこから湧き出る愛、謙遜、純潔の訓戒をよく理解しなさい。”目覚めて”休みなさい。私がイエズスを待ちながら、そうしていたように。彼は自分の平和を運ぶためにもう間もなく来るでしょう」

      あかし書房 フェデリコ・バルバロ訳 マリア・ワルトルタ『聖母マリアの詩』上より






      44 ベトレへムへの旅 つづき

      2013.06.17 Monday

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        「その状態の女にとっては長い旅だね。あなたの妻か」
        「そうです」
        「泊まるところは?」
        「決まっていません」
        「ああ それはいけない! 名前を届けるためにやって来た人々でベトレへムはあふれている。宿が見つかるかどうか…ここらへんをよく知っているのか?」
        「たいして…」
        「じゃあ、私が教えてあげよう、彼女のために」と、マリアを見ながら言う。「まず、宿屋を探しなさい。人で一杯だろうが、そこらで一番広い広場に面した所です。この街道からまっすぐ行けば、まちがうことはない―その宿屋の前に噴水があるが―大きな門のある広くて低い家です。満員で宿屋や他の家にも場所が見つからなかったら、宿屋の裏の畑の方に回りなさい。山の方に小さな小屋がある。エルサレムへ行く商人たちは、宿屋が満員で見つからないと、よくそこへ動物を入れる。まあ、ドアもない湿っぽい小屋にすぎないが、それでも避難所となろう。女連れでは…道ばたで野宿もできまい。そこなら多分、寝るために、また、ろばのための枯れ草も見つかるだろう。神様がお二人とともにおられるように」
        「神は、あなたに喜びを与えますよう…」とマリアは答える。
        「平和が、あなたとともに」とヨゼフが言う。
        旅を続け、小さな峠を越えると、前の方に、もっと広い盆地が広がる。その盆地を取り囲む斜面には、上の方にも下の方にも、多くの家が見える。ベトレへムである。
        「ダヴィドの地に着いたのですよ、マリア。やっと休むことができるでしょう。とても疲れているようだね…」
        「いいえ、ただ考えていたことが…」マリアはヨゼフの手をつかまえて、幸せなほほえみを浮かべて言う。
        「時期が来たようです…」
        「え? あわれみの神よ、どうしよう…」
        「恐れないで、ヨゼフ。ごらんなさい、私は何の心配もしていないでしょう?」
        「しかし、苦しいでしょう…」
        「おお、そうではありません。私は喜びにあふれています。どれほどの喜びか。心は強く動悸して、私に『生まれる! 彼が生まれる!』と繰り返しています。私の心を叩いている私の子供が『お母さん、私は、神の接吻をあなたに与えるために来る』と言っています。おお、私のヨゼフ、何という喜び!」
        しかし、ヨゼフは喜んでばかりはいられない。何とか避難所を見つけることが緊急である。歩みを早め、ドアからドアへ宿を頼むが空いた場所がなく、断られる。宿屋に着く。ここも満員で、
        中の大きな庭をとり囲んでいる素朴な回廊の下でさえも、休んでいる人々で一杯である。ヨゼフは庭の中に、小ろばに乗ったままのマリアを残して、他の家々を探しに行く。やがて、がっかりして戻る。どこにも場所がない。冬の早いたそがれが迫っている。ヨゼフは宿主にこいねがい、旅人たちに頼む。彼らは男で、健康であり、ここにはもう産気づいている女がいる…。同情してくれるように頼むがむだである。一人の金持ちのファリサイ人が、二人をあらわな軽蔑の目で見下し、マリアが近づくと、癩病人が来たかのように退く。* ヨゼフは、それを見て憤慨で真っ赤になるが、マリアは、なだめようとしてヨゼフの手首をつかんで言う。
        「強いて頼まないで、行きましょう。神様が計らってくださるでしょう」
        外に出て、宿屋の塀に沿って、この塀と貧しい家の間に引っこんでいる小道を曲がる。宿屋の裏に回って探す。

        *レビ記12・2。

        あかし書房 フェデリコ・バルバロ訳 マリア・ワルトルタ『聖母マリアの詩』上より

        マリア・ワルトルタ『聖母マリアの詩』上より

        2013.06.15 Saturday

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          44 ベトレへムへの旅

          群衆で雑踏する街道を見る。家財道具と人を載せて行くろば、戻るろば、人が乗り物に拍車をかけ、歩いている人は、寒いので足を早める。空気は済んで乾燥して、晴天ではあるが真冬の肌を刺す寒さである。裸の畑はいっそう広々として見え、牧場には冬風に焼けたような短い草しかない。それでも牧場に羊たちは、何かの糧を求め、ゆっくりと昇る太陽を探す。この小さな動物も寒さのために身を寄せあっている。顔を上げて鳴き”寒いから早く来い”と言うかのように太陽の方を見る。このあたりは、波打つ丘陵地帯である。いくらか草の多い盆地、小さい谷や丘が並び、道はその真ん中を南東の方向に向かっている。
          マリアは、灰色の子ろばに乗っている。重いマントにすっぽりくるまって、鞍の前の方にヘブロンへの旅の時に見たあの道具と箱を載せている。
          ヨゼフは手綱をとって歩いている。
          「疲れたか?」とたびたび聞く。
          マリアはほほえみながら「いいえ」と言う。三度目に「歩いている、あなたの方こそお疲れでしょう」と言い加える。
          「おお、私のことか。私にとっては何でもない。ただ、もう一頭のろばを調達できたなら、あなたも少しは楽に、旅ももっと早くできたはずだったのに。しかし、どうしても見つけられなかった。まあ、元気を出してください。直にベトレへムへ着く。その山の向こうにエフラタがある」
          それから沈黙が続く。マリアは話さない時には、心の祈りに専念しているようである。自分の考えごとに柔和にほほえみ、群衆を見ても、男か女か、老人か羊飼いか、金持ちか貧乏人か気がつかず、自分だけがみているものにとらわれている。
          「寒くないか?」とヨゼフは風が吹き出したので聞く。
          「いいえ。ありがとう」
          しかし、ヨゼフは信用しない。小ろばのわきに下がっているサンダルを履いたマリアの足にふれる。その足は、長い服の裾からちょっとしか出ていないが、冷たいと感じたようである。ちょっと頭を振って、肩から斜めに背負っていた毛布を外して、マリアの足を包み、膝の上まで伸ばし、毛は毛布とマントの下で暖められるようにする。
          左手の牧場から右の方の牧場に、渡ろうとする羊の群れが道を横ぎる。 
          ヨゼフは、その群れを連れている羊飼いを見つけ、その人に何か耳打ちする。羊飼いはうなずく。ヨゼフは小ろばの手綱を引いて群れについて牧場へ行く。羊飼いは、肩にかけている袋から荒削りの椀を出して、乳房のよく張っている雌羊の乳をしぼり、ヨゼフは乳で一杯になった椀を、マリアに渡す。
          「神は、お二人を祝福しますように」とマリアが言う。
          「あなたを、あなたの愛のために。あなたを、あなたの慈悲のために。あなたのために祈ります」
          「遠くから来たのか?」
          「ナザレトから」とヨゼフは答える。
          「行くところは?」
          「ベトレへムです」

          あかし書房 フェデリコ・バルバロ訳 マリア・ワルトルタ『聖母マリアの詩』上より