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2017.01.04 Wednesday

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    37 ナザレトで

    2015.08.05 Wednesday

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      マリア・ワルトルタ著作による『イエズスに出会った人々』(三) フェデリコ・バルバロ訳編 あかし書房 1984年より

      37 ナザレトで

       セフォリの北西、険しく石がごろごろして段々畑のようになっているナザレトは、丘の上から見ると広々している。時がたって山奥は変わったが、今、イエズスが立っている所は、イエズスを石殺しにしようと待ち受けているナザレトの群衆の真ん中を平然と横切り、皆を思い留まらせた所らしい。(1)
       イエズスは、懐かしいが敵もいるこの町を眺めようと立ち止まり、明るくほほえむ。神の子のほほえみは、イエズスを我が子として迎えた母の生地、神の嫁そして神の母となったこの地を祝福する。そのほほえみは、ナザレト人に値しない人には知られざる祝福である!
       従兄弟の二人も、我が町のように喜んで眺める。とはいえ、タデオは厳しく、ヤコボは晴れ晴れと穏やかで、イエズスのほほえみに近い。
       トマは故郷ではないけれど、喜びに顔を輝かせ、煙突から煙の出ているマリアの小さな家を指して言う。
       「お母様が家でパンを焼いています」本当の母親の話をしているかのような深い愛がこもっている。
       その年齢と教養のために落ち着いている熱心ものがにっこりする。
      「そうです。あの方の平和は、もはや私たちの心にも及んでいます」
      「さあ、早く行きましょう」と、ヤコボがせかす。
      「ナザレ人たちに気づかれないよう、こちらの小道を行きましょう」
      「そうすると、おまえたちの家から遠くなります…おまえたちのお母さんも早く会いたがっているでしょうに」
      「おお、シモン、安心して。きっとマリアの所に集まっているはずです…パン焼きのためだけでなく、あの病気の娘もいるから」
      「そうですね。こちらから行けば、アルフェオの菜園の裏手を回って、うちの庭の垣根の所に出ます」とイエズスが言う。
       とっかかりの急な坂道を滑るように早足に下り、町が近くなるとゆっくり歩く。オリーブ畑を抜け、麦の収穫の終わった小さな畑を横切り、町の最初の菜園の横を通る。菜園の垣根はよく茂り、たわわに実った枝が垂れ下がって石垣を覆っているので、菜園の中で働く人や洗濯物を家のそばの草原で干している主婦の目に留まらずに済む。
       冬はキイチゴの枝がもつれ、夏は西洋サンザシの咲くマリアの庭を囲む垣根は、今、ジャスミンと杯のような形の花で飾られている。垣根の奥で、カピネラがきれいな声で鳴き、クークーと鳩の鳴き声も聞こえる。
       「いつだったか修繕した戸も花に覆われています」と、庭の裏手の粗末な戸を見るために一足先に行ったヤコボが声を上げる。
      「では、あぜ道から行って戸をたたきましょう。母は、修繕したばかりの戸が壊れたら悲しむから」とイエズスが答える。
      「マリアは”閉じられた庭園(2)です”」とアルフェオのユダが感激している。
      「そう。そしてマリアはそこのバラです(3)」とトマが言い、
      「アザミの中の百合のように(4)」とヤコボが言い、
      「封じられた泉」と熱心ものが言う。
      「むしろ、庭園を潤す泉、生ける水の井戸、レバノンから流れ下る小川(5)。地に命を与え、その香り高い美しさで天に向かってほとばしる」とイエズスが受ける。
      「あと少しで、お母様があなたを見たら、どんなにお喜びになるか」とヤコボが楽しげに言う。
      「従兄弟よ、ずっと以前から知りたいと思っていたのですが、教えてください。あなたはマリア様をどのように見ているのですか。母としてですか。弟子としてですか。確かにあなたのお母様なのですが、マリア様は女性で、あなたは神です…」とタデオが質問する。
      「姉妹であり、花嫁であり、神の歓喜と休養また人間の慰め(6)です。私は、神としても、人としても、マリアにすべてを見、すべてを持っています。天の三位一体の第二の位格の悦楽であり、御父と聖霊と同じように、みことばの歓喜であり、肉体となった神の歓喜であり、光栄を受けた神なる人間のみことばの歓喜です」
      「何という奥義! では、神はご自分の歓喜を二度もあなたとマリアに分かち与え、あなた方をこの世にお与えになったのか(7)」こう熱心ものは感嘆する。
      「何と言う愛! これを誇るべきです。愛は三位一体がマリアとイエズスとを、この世に与えるのを惜しまれなかった」とヤコボが感嘆する。
      「神であるあなたは別にして、神はご自分のバラを、見つめるにふさわしくない人間どもに委託するのを恐れなかったのでしょうか」とトマが首をひねる。
      「トマ、『雅歌』でおまえに答えます」

      「編集者のことば」
       ここに雅歌八章十一〜十二節が引用されるが、実際のイエズスのことばは、引用とは少し別のものである。
      ”ソロモン(平和の人)には、バアル・ハモンにぶどう畑があって、それを番人に任せてあった”ここまでは聖書のとおりだが、次からは異なる。

       「この番人は、神のことばを汚す者にそそのかされ、そのぶどう畑を手に入れるために大量の金貨を積むが(すなわち、誘惑するためにはすべてを投げ出すつもりであった)、主の美しいぶどう畑”聖母マリア”は、自分自身を守り抜き、その収穫を主のみに捧げようとし、値のつけられない宝物、救い主を産んだのです」
       戸口に着いたアルフェオのユダは、イエズスが閉じられた扉をたたく時に、こう言う。
      「”私の花嫁よ姉妹よ、愛する者よ、雌鳩よ、汚れない者よ、戸を開けてください”と心から言えるのは今ですね」
       だが、イエズスは最も美しいことばを一言だけ言い、腕をいっぱいに広げて迎える。
      「お母さん!」
      「おお、我が子よ! 祝された者よ! 入りなさい。平和と愛とが、あなたとともにありますように!」
      「お母さんと、この家に住む人々とに平和!」と言いながらイエズスが入り、他の人々もついて来る。
      「あなた方のお母さんは向こうで、女弟子の二人はパン焼きと洗濯をしています」と、使徒や弟子にあいさつをしてからマリアが説明する。
       使徒たちは慎み深く、母と子だけになれるよう席をはずす。
      「母様、やって来ました。少しの間、一緒にいられます…。おお、母様。長い間人々の中にいた後で、家に帰ると、実に暖かく心地よい。とりわけ、母様が」
      「でも、人々はあなたを知れば知るほど、二本の枝に分かれていきます。あなたを愛している人々と…憎んでいる人々…憎む枝の方が太いわ…」
      「今、悪は打ちのめされる時が近いと知り…ある人々を荒れ狂わせています…娘の具合はどうですか」
       いくらかは良くなりましたが…手遅れになるところでした…もううわ言は言っていません。娘の話は遠慮がちですが、うわ言と一致しています。私たちがうわ言から娘のこれまでの暮らしを推し量っていないと言うとうそになります…気の毒な娘!…」
      「まさしく。けれども、御摂理が娘を守りました」
      「それで、今は?…」
      「今は…知りません(8)。アウレアの身柄は私のものではありません。霊魂は私のものですが、身柄はヴァレリアに預けられます。今はいろいろ忘れるために、しばらくここにいるのですが…」
      「ミルタがアウレアを欲しがっています」
      「知っています…でも、あのローマ人の婦人の許しなしに何かを決める権利は、私にありません。娘を金で買ったのか、それとも約束という武器だけを用いたのか。…あの婦人が娘を返してほしいと言ったら…どうしたものか」
      「子よ、私が代わって頼みに行きます。あなたが行くのはよくありません…お母さんに任せなさい。女だと―イスラエルでは一番下等なものですが―異邦人と話をしに行っても、それほど目立ちません。それに、お母さんはほとんど世間に知られていません! マントを羽織ってティベリアデの道を歩き、ローマの婦人の家を訪れるただのヘブライ人の女など、だれの目も引きはしません。」
      「では、ヨハンナの家へ行って、そこであの婦人に話すのがいいと思います」
      「子よ、そうします。おお、私のイエズス! あまり心配しないで…とても悲しんでいますね…私には分かります…あなたのためにあれこれとしてあげたいけれど…」
      「もはやいろいろしてくださっています、お母さん。あなたがなさるすべてを感謝しています…」
      「おお、子よ。私はちっぽけであわれな助けですね! あなたがもっと愛されるようにすることもできず、その時まであなたに何の喜びも与えられず…私は一体何なんでしょう。何も言えないあわれな女弟子です…」
      「母様! 母様! そんなふうに言わないで! この私の力は、母様の祈りによるものです。母様のことを考えると、ほっとします。今、母様の胸にもたれて、おお! どれほど慰められることか…母様!…」
       イエズスが壁にもたれて立っていた母を引き寄せ、その胸に額を押し当てると、マリアがそうっとイエズスの髪をなで、愛にあふれる沈黙が流れる。イエズスが立ち上がって言う。
       「他の人たちやあの娘の所へ行きませんか」母と一緒に庭に出る。
       娘が寝ている部屋の入口で、女弟子が使徒たちと話し込んでいるが、イエズスを見るとひざまずいて黙る。
      「アルフェオのマリア、あなたに平和。ミルタとノエミ、あなた方にも。娘は眠っていますか」
      「はい。熱が高く、もうろうとしています。このまま続くようなら、危ないかもしれません。あの体では病気に勝てないし、いろいろ思い出して錯乱状態なのです」とアルフェオのマリアが伝える。
      「そのとおりです。それに、もうローマ人を見たくないから、このまま死にたいと漏らしています…」とミルタがつけ加える。
      「もうこの娘を愛している私たちには大きな苦しみです…」とノエミが言う。
      「心配しなくてよろしい」と、イエズスが戸口のカーテンを少し開けて力づける。
       壁に向いた小さな寝台に、こけた頬だけが真っ赤で、顔は雪のように白く、黄金の長い髪にうずもれて葬られているようである。あえぎながら、もごもごと意味不明のことばをつぶやき、毛布の上に手をだらんとして、時々何かを拒絶するしぐさをする。
       イエズスは部屋の入口に立ったまま、あわれみを込めてアウレアを見つめていたが、
      「アウレア! おいで! あなたの救い主がいます」と強く呼びかける。
       娘はむっくり起き上がってイエズスを見ると、大きな叫び声を上げながら、寝巻きの裾を引きずりながら、裸足のままイエズスの足元にひざまずく。
      「主よ! 今度こそ解放されました!」
      「治りましたね。ほら、死ねませんね。先に真理を知る必要があったから」こうイエズスの足に接吻する娘に話しかける。
      「立って、平和に行きなさい」こう言うと、熱が下がった娘の額に軽く手を触れる。
       アウレアは、処女マリアにもらったらしい裾の長い麻の服を着、やせ細った肩に、髪がマントのようにたっぷりかかり、下がったばかりの熱で灰青色の瞳がうるみ、今、湧き上がる喜びに、まるで天使のように見える。
      「さようなら! 私たちは仕事があるから、あなた方は娘と家のことをしてください…」と先生が言うと、四人の使徒たちと一緒に、ヨゼフの昔の仕事場で、今は何の用もしていない仕事台に腰かける。

      (1)ルカ4章。
      (2)雅歌4・12。
      (3)シラ24・14。
      (4)雅歌2・2。
      (5)雅歌4・15。
      (6)雅歌4・8~12,5・1。
      (7)雅歌8・11~12。
      (8)人間としての知識では知らない。
       

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